3.4.5.6歳向けの「算数が好きになる日常遊び」
長年子どもと関わる仕事をしていると、こんな質問をいただきます。
「算数を好きになってもらうには、幼児のうちに何をしたらいいんでしょうか?」
今回はそんな疑問への回答として、3.4.5.6歳のお子様向けに、何気ない遊びやお手伝いで算数脳が育つ「算数が好きになる日常遊び」をご紹介させていただきます。
お子さんと過ごす生活の中で、無理なく算数に触れてみてください◎
この記事の著者
おまんじゅう
千葉大学教育学部小学校教員養成課程算数科専修卒業。中学校での数学教員を経て結婚後出産。
現在塾で中高数学を教えながら三人の子供を育児中。放課後等デイサービス、不登校学習支援や心のケアの仕事にも携わり今一度自分の子育てを振り返ることを決意。筑波大学人間学群障害科学類で科目等履修生として障害児教育や障害者福祉について学ぶ。
【所持資格】
・小学校教諭一種免許状
・中学校教諭一種免許状「数学」
・高等学校教諭一種免許状「数学」
どうして3.4.5.6歳のお手伝いや遊びが大切なの?
「実体験」の中で算数に触れる
まだ頭も心も柔軟な時期に、実体験の中で算数概念に触れることは、その子の算数脳を刺激します。
小学校に入学してはじまる算数という教科は、初期の頃からつまずく子もいます。それは算数的な活動に本人のイメージが伴わないことが原因で苦しむことも多いのです。
親子の遊びやお手伝いは大きくなっても覚えているもので、温かい光景(=イメージ)として思い出されやすいのです。
小さいうちはプリントやタブレットよりも実体験!
実際のものを触ってみて感じながら自分の頭で考える、そんな体験を大切にできたら、その延長線上に小学校の算数が始まれるでしょう。
ありきたりなお手伝いや遊びの中でも、算数脳を意識するだけでお子さんへの声掛けが変化します。
我が家オリジナルの算数脳遊びやお手伝いをどうぞ楽しんでください!
パパママは日々お忙しい方も多いので無理ない範囲で取り組まれてくださいね。
算数が好きになる日常遊び〈1〉 10まで数えよう
湯舟からあがるときに「10数えたらあがろうね」というのは、みなさん一度はやったことがあるでしょう。これは小さなうちから数に触れるよいチャンスです。
まだ言葉が追い付いていなくても、耳から「1、2、3、4…」と数を入れてあげることで感覚的に数に触れることになります。
何かが繰返されていることを感じたり、順番を感じる子もいるでしょう。10になったらおわりだ!という量感を通じた期待をしている子もいるかもしれません。
そして実は10というまとまりを知らずのうちに意識しています。10まで数えて、まだ寒いからもう少し入っていようか?と声掛けをして20まで数えてみるのもいいですね。
10の先があることに気付く
10の先があったんだ! と気づく子もいるでしょうし、1~10を数えたときと似ているけどちょっと違うことに気づく子もいるでしょう。大きな数にうつらずとも、「10、9、8、7…」と下っていく面白さもありますし、指をつけながら視覚的に1~10を捉えることもできます。1~10という数には沢山の算数的思考が隠されています。
そして、段々と一緒に数えられるようになるわが子のかわいい姿を眺められる嬉しさもあるでしょう。たまに一緒にお風呂につかって数を数えてみませんか?
算数が好きになる日常遊び〈2〉 お手伝い「食事準備」
お手伝いを通して算数を感じよう
子どもの認知が発達してくると、それぞれの発達段階で「お手伝い」ができるようになってきます。
3-4歳ではまだ見よう見まねでやることも多いので、お手伝いというよりは、逆に親の方が手間と時間がかかってしまうことになりかねませんが、ランチョンマットを運ぶ、バナナを配るなど、割れなさそうなものをお願いすることは出来ますね。出来る余裕があるときで十分!
結果は求め過ぎず「好きなように」やらせてみるのが、親子のお互いにとって大切なこと。
例えば…ミニトマトを分けてみよう
お手伝いに余裕があるとき、例えば「ミニトマトをみんなのサラダの上に分けてのせてちょうだいね」とお願いするとします。
トマトは全部でどれくらいあるだろう?分けるってどういうことだろう?ということを考えながら手を動かすでしょう。このお手伝いではサラダのお皿一枚に対してミニトマトひとつ分という「一対一対応」を知らずのうちに感じています。
また子どもによっては、私はトマトが好きだからいっぱいのせよう。嫌いだからパパにあげようなど、等分ではない分け方をする場合もあるでしょう。そんなときはチャンスです。どうしてこういう分け方をしたの?と聞いてみてください。
そこにその子の素直な気持ちがのった「多い少ない」や「足し算引き算」が隠れているはずなのです。
例えば…海苔をちぎって分けてみよう
また大きな海苔一枚を渡して「これをちぎってみんなの親子丼のお皿に分けておいてね」ということを任せたとしましょう。今度は一つずつに分かれていないので自由な量感で配分していきます。
大きな海苔のままのせる子もいれば、小さく小さくちぎってのせる子もいるでしょう。面倒くさくなって食べちゃって終わりにする子もいるかもしれません。それは0を感じる体験です。
これは大きな海苔と小さくなっていく海苔を体感する一方で、ちぎった時にできる「かたち=図形」も感じているのです。
算数が好きになる日常遊び〈3〉 半分こ
みかんを半分こ、ホットケーキを半分こは、よく日常生活に出てきやすい場面です。
今は小学三年生から分数を学びます。教科書の分数の問題は数字が多く、はじめから分数への苦手感が強くなる子がいます。
小さいときにピザやケーキを分けることを一緒にやったり、みかんを1個ずつバラバラにして何個か組み合わせたりして、何パターンも作ってみるのもいいでしょう。
今はお菓子も個包装が多く、一人ひとつずつ用意することが多いですが、お菓子を半分こすることには算数的な思考体験が隠れています。
上手に分けられなければ、お兄ちゃんばかりずるい!と兄弟喧嘩も始まります。正確に半分に分けるためにはどうしたらいいのかを考えます。
丸を割って「比較する力」を培う
丸(円)であればどこを通って割るのがいいか感覚的につかむでしょう。これは図形の性質です。
上手に分けられたとしても、少しでも大きい方をなんとか見比べて選ぼうとします。ここで本気の「比較する力」も培われますね。知らずのうちに算数的思考をしていることは言うまでもありません。
算数が好きになる日常遊び〈4〉 お洗濯たたみ、折り紙あそび
洗濯物を畳んで「かたち」に気付く
お洗濯たたみは、4-6歳頃になるとほとんどの子ができるようになるお手伝いです。
服をたたむという行為には沢山の「かたち」への気づきポイントが隠れています。
まず「わたしの服は小さいなママやパパの服は大きいな」という家族それぞれのお洋服の大きい小さいへの気づき。そして半分こ、半分この繰り返しで畳むこと。
ある大きさにするために出っ張っている部分を折りたたむときに感じている図形の補助線。毎日ではなくても、たまの休日などに一緒にやってみても楽しいかもしれません。
はじめから上手くいくわけはないので、心の余裕があるときに「洗濯物で遊ぶ」くらいのスタンスがいいでしょう。
まずはタオルだけをお願いするのも一つの方法です。半分こ半分この繰り返し。
できたら「ありがとう!」と伝えてケースにしまう。お風呂に入るときに自分で取り出せたら、自分でできることも増えますね。
折り紙を触って「かたち」を感じる
また、折り紙遊びを好む子もいます。数学には「オリガミクス」という分野もあり、折り紙からはじまる数学的な考え方は、パンフレットの折り方や宇宙空間のパネル等の折り畳みに使われるなど私たちの生活に根付いています。
折り紙のもつ幾何学的な性質を幼児期の遊びに取り入れることはとても算数的と言えます。日本は古来から紙を折るということを身近なものとして生活してきました。
今は手軽に折り紙も購入できますし、こだわってみれば日本の伝統文化の素敵な和紙にも出会えます。
紙を折ってみる、はさみで切り込みを入れて出来上がる形を感じる、立体的な箱を作ってくず入れにする。1枚の紙から沢山の算数体験をできるのが折り紙遊びです。
算数が好きになる日常遊び〈5〉 お花にみずやり
庭のお花や植物に水をあげるなどの一見単純に思えることにも算数的な思考は隠れています。
まず、蛇口をひねってじょうろに水を注ぎます。どれだけの時間水を貯めれば溢れるのかといった、かさの量感、じょうろの重さを感じること、お花に水をやることで水が減っていく感覚、同じくらい水をあげることを考えることで養われる等分の感覚。
成長する植物が生活の中にあることは、子どもたちの体験の幅を広げるいい機会になるでしょう。
算数が好きになる日常遊び〈6〉 電車に乗ったら
路線図を見ながら「数の概念」を感じる
お子さんの中には電車好きな子も多く、お出かけに電車を使うご家庭も多いかもしれません。
電車の中で見るあの路線図は、数の概念を体感するとてもいい教材です。もしも興味のある子だったら駅の並びを紙に書いて自分の駅や到着駅、途中の駅などを書き込んで「何番目」を意識しながら乗ると面白いでしょう。
生活の中で「数の概念」の感覚を養おう
小学校一年生の授業では、「数の概念」の基礎を学びます。算数の苦手な子嫌いな子の多くは、「数の概念」が不十分なまま足し算の学習に進むケースが多くいです。算数初期でつまずいてしまうと、抽象概念である数学への移行が困難になります。
「数の概念」というと難しいことのように感じますが、実は生活に密着しているものです。
10という数があって、10駅あるうち降りるのは何番目なのか=「なんばんめ」の概念と、10個のさくらんぼを4個と6個に分けたよ=「いくつといくつ」のように順序や集合の違いがわかること。
日常生活を送る中でそういった算数的な感覚こそ、幼児期に触れ合わせたい算数体験と言えるでしょう。
幼児期の算数「かず」「かたち」「すいり」
幼児期の算数教材の多くは「かず」「かたち」「すいり」というようなカテゴリーに分けられています。
子どもたちは体験を通してこのような「算数の概念」を感じているんだな、と思ってあげてください。
かず
「かず」は数量感を養います。
生活の中にある具体的なものの数と数字を当てはめて結びつけます。
幼児期は大きな数を学ぶ必要はありませんが、日常の中に数の概念が沢山あるということに気づくのは大切なことです。
かたち
日常にある「かたち」に着目します。
みつけた形から基本となるかたち=図形を体感します。
手に取れるものを触ったり分解することで、見えない線(補助線)を想像する力も養われます。
すいり
「すいり」は事象を観察して、重さや速さを比べる=比較する、順番やルールをみつける=規則性に気づくことなど、小さな事柄から全体を推理する力を養います。
算数・数学が苦手にならないためには?
算数・数学は、学校の教科の中でも子どもたちに苦手意識を持たれることの多い教科です。
その理由1つとして、算数や数学は「積み上げていく教科」と呼ばれることが挙げられます。
はじめの方でつまいづいたり、わからなかったりすると、その先の学習ではもっとわからないこと=理解できないことが増えていきます。その結果、算数や数学を苦手と感じ、嫌いになってしまうのです。
算数の概念形成となるきっかけは、幼児期の生活に実はたくさん散りばめられています。例えば「お風呂では10数えてからあがろう」や「チーズをひとつずつお皿に配ろう」といったお手伝いは、日常生活の中で「数の概念を実体験している」ことでもあるのです。
算数を身近に感じよう
算数学習が新しい単元に入るとき、大体どの教科書でも「日常でおこること」を導入として扱います。
その教科書に載った「日常でおこること」と自分の実体験が結びつくことで「おもしろそう」「どういうことだろう?」といった興味関心がおこりやすくなります。
算数の学習が身近に感じられるようになることこそ、算数が苦手にならないポイントと言えるでしょう。算数という教科で学習する内容は、とても生活に根差したものなのです。
物事を通して算数を「体験する」
指導要領の改訂があってから、昔のゆとり教育とはかわって、算数の学習内容がどんどん前倒しになりました。それは以前よりも早いうちから高度な思考力を育てることを意味しています。
そうなると、実体験と学びのリンクがその子の学習の大きな助けになります。学校では未だ、机に座って教科書を開き、ノートやプリントへ文字を書き込んだ学習形態が多く見受けられます。であれば尚更、幼児期のうちにたくさん実体験を重ねることが必要になります。
お手伝い、手先を使った活動、身体を動かして遊ぶこと、物事を観察し考えて感じて「体験する」ことはとても大切。
幼児期の柔軟な時期に、親子のコミュニケーションの中で身近な算数に触れ、知らず知らずのうちに数量の感覚や図形をイメージする力が養われていると、その後の学習への大きな助けとなります。
これから求められる算数力とは
ニュースなどでもよく耳にするように、今後の算数・数学はより思考型に移っていくことが予想されます。
単純な数式を解いて丸をもらうようなこれまでの一問一答式から、文章題へ。また、答えがひとつではない問題を考えることを求められていくようになるでしょう。
計算ドリルを繰り返し行うことは不必要なことではありません。数と式を扱えなくては、答えにたどり着けませんし、簡単な計算を機械がやってくれる世の中とは言え、その仕組みを理解できていなくてはより高度な問題解決には挑めません。
これまではいかに早く大量の計算ができるかを問われ、それで評価される時代が続きました。これからはその先にある解決、もっと直感的な思考力が問われることになると思います。
問題の解決ポイントがどこにあるか目をつける力は、その子がこれまで生きてきた中にヒントがあります。出会ってきた経験やそれらに伴なって育まれた感性や視点にこそ思考力の基礎があると思うのです。
steam教育
steam教育という言葉を耳にされたことはありますでしょうか?
steam教育とは文部科学省が推進する、実社会で問題の発見・解決に導くために各教科等での学習を横断的に進めることを推進した教育方針のことです。
S:science 科学
T:technology 技術
E:engineering 工学
A:art 芸術・教養
M:mathematics 数学
の頭文字を組み合わせた造語がsteam教育です。文部科学省ではこれら5つの領域に加えてより広い範囲で捉えることも示唆しています。
その中には「数学」が入っています。課題の発見や解決、価値創造に結び付けていくための資質や能力の育成に数学的思考は大切なものだということが言われています。
これからの社会を生き抜く力を身につけるためにも、小さい頃から身近なものを通して算数を感じる体験はとっても大切。ぜひ温かい気持ちでお子さんのさまざまな体験を見守ってあげてください。
◾️文部科学省…STEAM教育等の各教科等横断的な学習の推進
タブレット学習と日常生活
幼児期に「かず」「かたち」「すいり」というような分野をおもしろい!と思えれば、小学校低学年では「算数が好き」になります。
そうすると中高学年以降の抽象的な問題にも、苦手意識から入ることなくフラットな姿勢で疑問を持ち、楽しく取り組めるようになります。
まずはパパやママが、こんなことも「算数・数学」の内容だったのか!と気づくのも面白いかもしれませんね。子どもたちは親の気持ちをよく感じ取っていますから。
今はタブレット学習も進み、幼児向けの算数学習ができる環境が整っています。そんな時代だからこそあえて、親子の日常の中で「算数」に気づいてほしいなと思うのです。それは「実体験」だからです。タブレット中に出てくるゾウさん親子のリンゴの話ではなく、ぼく・わたしとパパママの話であってほしいのです。
ぼく・わたしが用意したお箸だよ。お風呂で小さいときに一緒にかぞえた1~10だよ。わたしのお洋服は小さいけれどパパの洋服はこんなに大きいんだ。いとこのおうちに行く電車に乗った時降りる駅は何番目だったかな?そういった些細な日常体験が、子どもたちの感性に算数の種を植えることになります。
さいごに
日本の生活環境であれば、算数数学が得意でなくても、ほとんどの人は何の苦も無く生きていけます。それは生活環境が整っていることでもありますが、コンピューターやAIなどの急速な発展や普及により、わたしたちの社会が大きく変化していることでもあります。スマホやタブレットひとつあれば計算機もついてるし、グラフ作成もデータ化もあっという間にできます。
ということは、私たちが算数数学を学ぶ意味ってなんだろうなと考えたとき。算数数学をすること自体が「考えることの『面白さ』」があってほしいなと思うのです。
幼児期~小学校までの算数を終えて、中学校数学の数学になってくると、「こんな問題を解けなくても生きていける」という生徒が出てきます。まったくその通りですね。
でも、まぁそんなこと言わずに、一見難しく見える文章問題に一緒に取り組み、連立方程式を用いて速さの問題を解いてみたとしましょう。何個もの数式を解いて答えが出たとき、どんな生徒も表情が「ぱぁっ!」っと明るくなるものです。
答えがでたことで「家から駅まではこれくらいだったのか」「二人の速さはこういう関係があったのか」という発見に出会うからです。そして、導き出した答えが意味するものを、今一度問題に立ち返ってイメージするのも大切なことです。
数学は学習を進めれば進めるほど、その内容は抽象化します。それは答えがわかりにくくなることでもあります。今自分はどこに向かっているの?その行き先に的を当てること、的へのルートを用意して辿ること、たどり着いた先で「発見」に出会うこと。それが算数・数学の面白さではないでしょうか。
その算数数学的思考の土台を作り、学習をサポートしてくれる存在になるのが、幼児期の親子の実体験=日々の生活だと言えるでしょう。
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