株式会社ピコトン代表内木と元JAXA研究員んお網蔵優子さんの対談インタビューメイン画像

「子供たちにもっと宇宙に触れてほしい」元JAXA研究員が開発した工作キット

今回対談するのは株式会社ピコトン代表 内木と、元JAXA研究員で現在「ゆうこ博士のわくわく科学教室」の代表を務められる ゆうこ博士こと網蔵 優子(あみくらゆうこ)さん。ゆうこ博士が開発された宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』(制作協力:はなはなみかん合同会社)についてインタビュー形式で開発のこだわりや想いについてお伺いしました。

宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』
ゆうこ博士が開発を進める『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』
宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』が組み立てられる様子

◆ゆうこ博士(網蔵 優子さん)
ゆうこ博士のわくわく科学教室 代表
千葉工業大学研究員惑星探査研究センター 嘱託研究員

「宇宙に生命がいるか」​「微生物の宇宙耐性」をテーマに宇宙の研究に取り組み、JAXA、東京薬科大学の助教勤務後、渡米し科学教室を立ち上げる。現在は東京都稲城市、オンラインを中心に「ゆうこ博士のわくわく科学教室」や「うちゅうのまつり」を開催し、多くの子供たちに宇宙についての学びを伝えています。

1.『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』を開発されたきっかけは?

完成品が並ぶ、宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』

内木:今回新しく開発をされた『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』は宇宙を題材にした子供向けの工作となっていますが、こちらの開発に至った経緯から教えてください。

ゆうこ博士:私がこれまで宇宙を専門に研究を続けていることもあり、子供たちに宇宙をもっと身近に感じてほしいとの想いから工作というツールの開発に至りました。現在、私の科学教室に参加いただいた子供たちを中心にこちらの工作のモニターテストを行っている段階です。

内木:『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』はその名の通り、平面の紙を組み立てると色んな多面体になるのが面白いですね。紐を引っ張ると平面から一瞬で立体に変化する楽しさもあります。これはどのようなところから発想をされたのですか?

宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』をひっぱるゆうこ博士

ゆうこ博士私が元々幾何学形態や折り紙が好きだったのはあるのですが、地球から宇宙へ資材を運ぶ際には重量や大きさの制約があるので、太陽光パネルなどの巨大なものは、折り紙のようにコンパクトに畳んで輸送し、宇宙空間で開くという形式はすごく多いんです。人工衛星の太陽光パネルなどに取り入れられている「ミウラ折り」の技術などもそうですね。
そのように平面から立体にする、という工程は宇宙にも繋がる技術だなと思い取り入れさせていただきました。

また以前、月面に「フラー・ドーム」を建築するプロジェクトに関わらせていただくことがあったのですが、平面から立体物に変化する様子がなんだか似ているなと感じます。

フラー・ドーム…フラー・ドームは、1960年代より世界各地で20万戸以上が建築されています。
その技術は”D0 M0RE WITH LESS”(最小で最大の効果)を提唱したバックミンスター・フラー氏によって開発され、住宅(ドームハウス)だけでなく、極地観測用ドーム(富士山頂レーダードームなど)、博覧会用の巨大ドーム会場(モントリオール博覧会アメリカ館など)等、多方面でその成果を実証してきました。

参照:Dome Project「フラードーム 特徴」
フラー・ドームに形が似ている正12面体

内木:「フラー・ドーム」は、日本でも建築物に使われている構造ですね。言われてみるとすごく似ています!
ゆうこ博士は、折り紙の作品制作や折り紙のイベントなども多数開催されていますが、今回の工作の「折る」工程にも特別な思いがあるのでしょうか?

ゆうこ博士そうですね、これまで科学教室やイベントなどで子供たちと折り紙の制作に取り組んでいると、最初の4つ折りが難しく、上手くできない、という子供が少なからずいたんです。そのような経験から、子供向け工作として「折る」「組み立てる」という工程を入れたものを作りたいという想いがこの工作のきっかけだったと思います。

内木:確かに最近子供たちの巧緻性の低下については問題になっていますね。こちらの工作は「折る」ことの良い練習になりそうです。

2.さまざまな形の10種類の多面体と「STEAM教育」との関わり

内木:『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』は10種類の様々な形の天体が特徴的ですね。こちらの中身を開発する際に意識したことなどをお聞かせください。

ゆうこ博士ただ立体を作るだけで終わらず、宇宙に興味を持ってもらいたいという想いから太陽系の10の天体(太陽・水星・金星・地球・火星・木星・土星・天王星・海王星・冥王星)をキャラクター化して取り入れました。紐を引っ張ることで閉じた立体に変化する10パターンの構造を考えるのは楽しかったです。

さまざまな形の宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』

内木:立体の形は球体に近いものから、三角柱や四角柱のようなものまでさまざまですね。これらの形にはどういったこだわりがありますか?

ゆうこ博士惑星というと「球体」というイメージがありますが、子供たちが柔軟な発想でさまざま立体構造に取り組めるよう、あえて色んな形が作れる内容にしています。これは私がアメリカに滞在していた頃に学んだ「STEAM教育」にも影響を受けています。

内木:なるほど。近年注目度の高い「STEAM教育」の、まさにサイエンスやテクノロジーからアートまでという理念に沿った内容の工作ですね。

STEAM教育…科学・技術・工学・芸術・数学の5つの英単語の頭文字を組み合わせた造語。
科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)。芸術・リベラルアーツ(Arts)、数学(Mathematics)の5つの領域を対象とした理数教育に創造性教育を加えた教育理念。知る(探究)とつくる(創造)のサイクルを生み出す、分野横断的な学びです。

参照:STEAM JAPAN | STEAM教育って?

ゆうこ博士アメリカには1年8ヶ月ほど滞在し、宇宙に関する研究、STEAM教育に関する学び、イェール・ピーボディ自然史博物館でボランティアなどを行っていました。実は、その時に言語の壁で上手くコミュニケーションをしきれなかった経験があり、その時に感じた、言語を使わなくても通じるものを作りたい気持ちは、現在のこちらの工作に繋がっていると感じています。

内木:紐を引っ張ると平面から立体になる工作。言語での説明や紹介ではなく「驚き」を入り口に、宇宙への興味を持ってもらうということですね?

ゆうこ博士はい。子供たちが紐を引っ張って「ワオ! 」「楽しい!」みたいな(笑)その驚きや体験から宇宙への興味を持ってもらえたらいいなと思っています。

3.工作を通して子供たちに伝えたいこと

内木:次に、『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』を通して子供たちに伝えたいことをお聞かせください。

ゆうこ博士こちらの『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』の説明部分にも記載させていただいていますが子供たちが取り組む工作を通して「やってみる→深める→広げる→」という循環を最も大切にしています。どの分野でも もちろん知識は必要なのですが、まずは自分でやってみるという姿勢が大事だと思っています。

内木:すごくいいですね。ピコトンでも「挑戦する」「失敗してみる」というのは大切にしているテーマです。

宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』の説明シート

ゆうこ博士子供たちには、点と点を繋げる力が備わっていると感じることも多いです。一見すると協調性がないように見える子供や、とがった個性をもつ子供も、興味がある分野には熱心に取り組んだり、進んで新しい発見をできたりと、周りからみるだけでは本人が感じていることを認識するのは難しいとも感じます。

内木:確かに、逆に「頭がいい」と評価される子供でも、本人は生きにくさを感じている、なんて例も少なくないと思います。

ゆうこ博士子供たちに「宇宙」についての関心を持ってもらいたいのはもちろんなんですが、幾何学、数学、テクノロジー、なんでもいいのですが、興味のキッカケをつくり、個性を伸ばす一助になればいいなという想いがあります。

宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』の自由シート

内木:子供たちにとって知識として学ぶだけでなく、実際に手を動かして驚く、面白いと感じる、というのはとても大切だと感じます。こちらの、惑星をキャラクターにしているのもすごくいいですね。擬人化することで遠く離れた宇宙のことも愛着が湧き、一気に身近に感じます。

ゆうこ博士これは共同開発をいただいた教材会社さんのアイデアで取り入れたものです。惑星のキャラクターは子供たちにも好評で、2歳の子が「作ったよ〜」と写真を送ってくれて嬉しかったです。

内木:私は、大学でコミュニケーションデザインを学んでいたのですが、まさにこのような「デザインで問題を解決する」という内容でした。キャラクター・擬人化を取り入れると子供たちにとって内容や本質が伝わりやすくなりますね。

ゆうこ博士はい、私自身も作っていて楽しい気持ちになります(笑)

4.「宇宙の仕事」とは? トラックのドライバーが宇宙開発を支える

内木:ゆうこ博士は構造学や生物学の面から長年宇宙の事業や研究に関わられていますが、「宇宙の仕事」にはどのようなものがあるかお聞かせいただけますでしょうか?

ゆうこ博士アメリカでは、NASAが主催の「STEAM教育」をテーマにした子供と関わる講師向けのウェビナーにも参加していたのですが、そのウェビナーの中で「トラックのドライバーが宇宙開発を支えている」といった話があったんです。

内木:それは面白い話ですね、どういうことなんでしょうか?

ゆうこ博士例えば、ロケットの機関には液体窒素を使用するですが、その液体窒素を工場からロケットまで運ぶには特別な輸送車と特別な運転技術が必要になるそうです。その運送を担当しているのが、民間の企業ということでした。そのように宇宙の事業というのはNASAなどの国の機関に加えて、民間企業の力で支えられているということでした。

他にも、ロケットの発射時にその土台にはものすごいパワーがかかるので、その強固な発射土台を作るのにも特別な左官技術が必要となるため、こちらを担う民間の企業も存在するということでした。「宇宙の仕事」という言葉を聞くと宇宙飛行士やロケット開発といったイメージが浮かぶかと思われますが、実はとても多様で、様々な仕事と技術で成り立っているんです。

内木:なるほど、子供たちがイメージする「宇宙の仕事」というのは宇宙飛行士のイメージが強いですが、他にも宇宙に繋がる仕事というのは沢山あるんですね。他にも宇宙に関わる仕事というのはどのようなものがありますか?

ゆうこ博士最近では、SNSを活用して宇宙のことを伝えるインフルエンサーのような仕事にNASAも力を入れています。Youtube、Instagramは誰もが見たくなる動画が作られています。こちらも、宇宙のことを伝えるという仕事ですね! そのように「宇宙の仕事」はものすごく沢山あるんだよということも子供たちに伝えていきたいことの1つです。

◆宇宙からのライブ配信が見れるNASAのYoutubeはこちら
◆さまざまな宇宙の写真が見れるNASAのInstagramはこちら

株式会社ピコトン代表内木と元JAXA研究員んお網蔵優子さんが談笑する様子

内木:今の子供たちが大人になる頃には、もっと沢山の「宇宙の仕事」ができてそうですね。ゆうこ博士は日本とアメリカのそれぞれで「宇宙の仕事」に取り組まれてきたわけですが、宇宙事業について日本とアメリカでどのような違いを感じられましたか?

ゆうこ博士まずは予算の規模ですね。日本のJAXAの予算が1,500億円ほど、アメリカのNASAの予算は6.8兆円といわれています。また、NASAの予算の内訳として、月や木星などの探査に約50%、他にも地球温暖化の対策に約10%の予算を割いているといわれています。そして「スペースX」など民間企業の宇宙の事業の動きも活発です。アメリカは成果に対してとてもシビアな国ではありますが、未来や人類の夢に大きく投資をしているという印象です。

内木:夢に投資できる、世界を考えて投資ができるというのはとても希望が持てる話ですね。このような話も子供たちの将来の幅を広げると感じます。

5.今の子どもは誰もが宇宙が当たり前の時代に生きている

宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』の説明書を指さす様子

内木:最後に、これからの時代を生きる子供たちに伝えたいメッセージをお願いします。

ゆうこ博士2030年に火星に移住する計画が進んでいたり、月面移住の「アルテミス計画」や月に国際宇宙ステーションのハブを作る「ゲートウェイ計画」が進んでいたりと、今の子供たちが大人になる頃には「宇宙」はもっと身近に感じれるようになっていると思います。最近では、前澤友作さんが宇宙飛行士としてではなく民間人として宇宙に行かれたのは話題になりましたし、国内企業では一般社団法人宇宙美容さんのように、「宇宙での暮らし・美容を考える」という取り組みをしている会社さんもあります。

そうしたように、宇宙がどんどん身近になっていく時代に変化しつつある今、子供たちには「宇宙に関わる方法は選択肢が沢山あるんだよ」ということを今後の活動や工作を通して伝えていきたいです。

アルテミス計画…NASAが提案している、月面探査プログラム全体をまとめて、「アルテミス計画」と呼んでいます。2025年以降に月面に人類を送り、その後、ゲートウェイ(月周回有人拠点)計画などを通じて、月に物資を運び、月面拠点を建設、月での人類の持続的な活動をめざします。

参照:JAXA 有人宇宙技術部門 国際宇宙探査の取り組み

内木:ゆうこ博士が標語にされている「今の子どもは誰もが宇宙が当たり前の時代に生きている」というのもとてもいい言葉ですね。近い未来「宇宙に関わる仕事や方法」というものはもっと認知をされて、子供たちの将来の夢として挙げられた時にもごく当たり前のものになっているはずですね。ぜひ、今後も子供たちのための活動を一緒に行っていければと思います。本日はありがとうございました。

ゆうこ博士ありがとうございました。

株式会社ピコトン代表内木と元JAXA研究員んお網蔵優子さんの対談インタビュー

網蔵さんと開発中の「宇宙の工作ブック」も乞うご期待ください

今回は、元JAXA研究員のゆうこ博士が開発された宇宙テーマの工作『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』についてこだわりや想いについて伺いました。
こちらの『ひっぱれ! 動く3D惑星模型』は現在、ゆうこ博士が開発を進めており、今後商品としてリリース予定です。

また現在、弊社株式会社ピコトンでは、ゆうこ博士と一緒に「宇宙の工作ブック」も開発中です!
こちらも近日商品としてリリース予定ですのでご期待ください♬

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